ネガティブ・ケイパビリティー( negative capability )という考え方
臨床心理士 刀根良典
(とね臨床心理士事務所 カウンセリング・オフィス「ZEN」主宰)
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(ある学校の研修会でお話ししたものです。学校関係者だけでなく、今、何か未解決の課題を抱えている方のお役に立つことがあるかも知れないと思い、掲載します。)
「こころの健康」について、一つだけ、お話ししたいと思います。私は、今、ある大学病院を会場にして開かれている心理療法のアドバンス・セミナーを受講しています。日本の精神医療を支える高名な先生方が毎回、講師として来られています。その講座で、講師の先生から教えていただいた沢山の事の中から、今日は一つだけご紹介(復伝)します。それは、
●ネガティブ・ケイパビリティー ( negative capability )
という考え方についてです。
ネガティブ・ケイパビリティー ( negative capability ) ・陰性能力。負の能力。陰の能力。 ・解決できない、わけがわからない、という場面にあっても、そのプレッシャーに負けない。 ・性急に問題を設定しない。 性急に解決を求めない。 問題を終わらせてしまわない。 ・わけのわからないまま、理解し難いまま、持ちこたえていく能力。
(通谷メンタルクリニック 院長 帚木蓬生「精神療法を底支えするもの」を参考に作成。) |
学校にいますと、ときに指導困難、解決困難な事例に出会うことがあります。そんなとき、誰もが、自分の力のなさに歯ぎしりし、途方に暮れてしまうことにもなります。教育熱心で生徒思いの、良心的な先生ほどそうでしょう。
そのような、どうやっても、うまくいかない事例に出会った時こそ、この「ネガティブ・ケイパビリティー(陰の能力)」が必要となってきます。
今の時代は、「こうすれば、苦労なしで、簡単に、お手軽に解決しますよー!」の方が受けるのです。ですから、今日の私の話は、受けないと思います。でも、お手軽な解決ばかり求めてしまうと、何かが欠落していきますし、結局は行き詰ってしまいます。なぜならば、
●世の中には、すぐには解決できない問題の方が多い
からです。
ことによると、学校現場は、すぐに解決できない問題だらけかもしれません。したがって、教育者には問題解決能力があること以上に、性急に問題を解決してしまわない能力、すなわち「ネガティブ・ケイパビリティー( negative capability )」があるかどうかが重要になってきます。
そして、私たちだけでなく子供たちにも、問題解決能力(ポジティブ・ケイパビリティー)だけでなく、この「どうしても解決しないときにも、持ちこたえて行くことができる能力(ネガティブ・ケイパビリティー)」を培ってやる。こんな視点も重要かもしれません。
●解決すること、答えを早く出すこと、それだけが能力ではない
解決しなくても、わけがわからなくても、持ちこたえて行く。消極的(ネガティブ)に見えても、実際には、この人生態度には大きなパワーが秘められています。
どうにもならないように見える問題も、持ちこたえていくうちに、落ち着くところに落ち着き、解決していく。人間には底知れぬ「知恵」が備わっていますから、持ちこたえていれば、いつか、そんな日が来ます。
「すぐには解決できなくても、なんとか持ちこたえていける。それは、実は能力の一つなんだよ。」
ということを、子供にも教えてやる必要があるのではないかと思います。
「心の健康」を考えるときのヒントの一つにでもなれば幸いです。