ZEN電子図書(CDブック)
とね先生の読むカウンセリングシリーズ(1)
森田理論で神経質は幸せになれる
とね臨床心理士事務所/ZEN図書出版――――――――――――――――――――――――――――――
第2章 森田理論のエッセンス
とね臨床心理士事務所 カウンセリング・オフィス「ZEN」主宰
臨床心理士 / 自律訓練法認定士 刀 根 良 典
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近年、森田療法は日本で生まれた精神療法として、一般の人々にも、しだいに知られるようになってきました。筆者も、生活の発見会の集談会や学習会以外のところで(たとえば教育関係者のカウンセリング研究会、養護教諭の研究会などで)森田理論について話すことも多くなってまいりました。森田療法は、日本で生まれた精神療法であるために、日本の精神的な風土に根ざしており、一般の人々にも理解しやすく、どこの研究会でも、共感を持って聞いていただけます。
ただし、教育関係者の研究会などでは、内容の深くて広い森田理論を、わずか一時間から二時間位の間に紹介しなければなりません。やってみますと、これが、なかなか大変な事であるのも事実です。
そこで、筆者は、森田理論のなかから、必要最小限であると思われる、一二のポイントを抜き出し、これに「森田理論のエッセンス」という名前をつけて、研修会などの教材として利用することにしました。あらかじめ、一二のポイントをプリントにして、参加者にお渡ししておいて、一番から順番に説明をしていきますと、思いつくままに即興で話をしても、うまくまとまり、講師としての責任を果たすことができます。私にとっては、たいへんに便利なものです。その12のポイントは、次の内容です。
森田理論のエッセンス
1 物事は常に変化発展していく。 2 物事は視点を変えていろいろな角度から見る。 3 感情は行動にともなって変化する。 4 事実は「あるがまま」に認めよう。 5 目的から離れるな。 6 考えるだけでなく行動しよう。 7 みんなが幸せになるように考えて行動しよう。 8 生活のリズムとバランスを大切にしよう。 9 自分の本来の欲求に目覚めよう。 10 過去にとらわれずに、今を充実させよう。 11 感情には責任はない、行動には責任がある。 12 不愉快なことが、悪いとはかぎらない。
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「森田理論のエッセンス」は、生活の発見会では、母親集談会、横浜夜間集談会、杉並集談会などで話させていただきました。白揚社から出版されました「わたしたちはどう生きるか」にも、プロロ-グの部分に採用していただいています。この章は、生活の発見会・横浜母親懇談会の方々にお話しましたときのテ-プから、原稿にいたしました。
1 物事は常に変化発展していく。 |
これは、森田理論の最も基本となる考え方の一つです。物事は動いていき、一時も留まる事がない。物事は常に移り変わっていくということです。世の中に、変わらない物は何ひとつ存在しません。何もかも、みんな変わっていくのです。
だから、現在,何かに悩んでいる人も、今は苦しいかもしれませんが、決して悲観することはありません。悪いことばかりが、いつまでも続くはずがありません。諸行は無常であり、万物は流転しています。どんなに悲観的に見える状況も、時とともに、良い方向に変わっていきます。
あまり変わらないと思われている人間の性格でさえも、石のように固定したものではなく、変わっていくと考える方が、理にかなっています。学習や経験を積み重ねることによって、誰もが成長することができます。だから、いつまでも、自分の性格のマイナス面を嘆いて、生きていかなければいけないということはないのです。性格も変化発展していくのです。
運命についても、普通は、あらかじめ生まれたときに定められてしまっていて、変わらないものだというふうに考えられがちです。しかし、何事も運命だからしかたがない、というふうに、あきらめてしまう必要はありません。「物事は常に変化発展していく」のです。あらかじめ決められてしまった運命も、本人の意思と努力でくつがえすことができます。また、そうでなければいけません。運命も、耐え忍ぶばかりが良いのではありません。運命は、自分の意思と努力で切り開いていくことができるものなのです。
このような考え方を,私は、森田理論から学びました。苦しい場面に直面するたびに、「物事は常に変化発展していく」という考え方に励まされ、困難な状況を幾度となく、切り抜けることができました。だから、皆さんにもご紹介したいと思います。
2 物事は視点を変えていろいろな角度から見る。 |
物事は、プラスとマイナスの両方の面を持っているという見方をするのです。性格を例にあげると、神経質性格のマイナスの面として、小心、不安を持ちやすい、自分を卑下する、などをあげることができます。ですが、物事は視点を変えて考えてみましょう。
小心と言うから悪く聞こえるのですね。これを細心と言い変えたら良い性格になってしまうんですね。不安にとらわれるというと言葉が悪いですが、これを、用心深いと言うと良くなってしまうのです。自分を卑下するといったら、これは悪いことですね。これも、献上の美徳を持っていると言ったら良くなってしまいます。
このように一つの事でも、見方によってその意味が、まるで変わってしまうのです。だから物事は、けっして一つの物差しだけで見ないようにしなければいけません。物事が、すぐに行き詰まってしまうのは、物差しを一本しか持っていないからなのです。
「人類はみな兄弟」という言葉があるかと思えば、「兄弟は他人の始まり」という言葉もあります。やはり、物事は、いろいろな角度から見た方がよさそうですね。
また、物事は背景によって、持っている意味が変わってくるのです。これを、色を例にとって考えてみましょう。赤い色は、その背景に白を持ってくると、とてもひきたちます。ところが、赤の補色である緑色を背景に持ってくると、背景が白であったときほどひきたちません。赤い色が、あまり赤らしく見えてきません。つづいて、背景に黄色を持ってくると、また違った感じになってしまいます。このように、赤という色は変わらなくても、背景に何色を持ってくるかによって、受ける感じがずいぶん違ってくるのです。
これは、ある人から伺ったお話ですが、「おめでたいですね。」という言葉も、「大学に合格」という背景で語られたときと、「知らぬは亭主ばかりなり」という背景で語られたときとでは、同じ「おめでたいですね。」という言葉も、まるで違った意味を持ってしまうのです。このように、背景によっても物事の持つ意味が変わってるのです。
だから、物事を判断するときには、背景というものをよく考えなければいけないということにもなります。いろいろな角度から見るというのは、一つの事柄が、どういう背景のもとで語られているかということを、よく考えてみることでもあるのです。
3 感情は行動にともなって変化する。 |
人間は嫌な感情にとらわれやすいですね。良い感情にとらわれて困っている人には、あまりお目にかかったことがありません。「今日は、なんだか嬉しくって困るな」などと言う人はいませんよね。嫌な感情だからとらわれてしまうのですね。早く無くそうとして。ところが、早く嫌な感情を無くそうとすると、かえってこだわりが強くなってしまいます。取り払おうとすると、かえって嫌な感情にとらわれてしまうという結果となりがちです。そのため、いつまでも一つの気分から抜け出せなくなってしまいます。
では、嫌な感情にみまわれたときに、私達はどうすればよいのでしょうか。こんなときには、嫌な感情があっても、この感情は、必ず変わっていくのであるという事実を知っておく事が大切です。どんな感情でも、しばらくすると自然に流れていくのです。
特に、何か行動すると、いっそう早く変わっていきます。なぜかというと、自分の感情に向いていた注意が、別のところに向いていくからです。嫌な感情を早く忘れようとするのではなくて、手を動かし、足を運んで、何か行動を起こすのです。何も思いつかないときには、部屋の掃除でもいいですからやってみましょう。心は流れていきます。
・・・・・・・(この後も原稿は続いています)・・・・・・・・・・
この続きは、とね臨床心理士事務所から出版しています、ZEN電子図書(CDブック)「とね先生の読むカウンセリング・シリーズ」(1) 「森田理論で神経質は幸せになれる」でお読みください。