公立小学校教育研究会・教育相談部会での講演記録
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如何にして職務上のストレスを低減するか
とね臨床心理士事務所 カウンセリング・オフィス「ZEN」
臨床心理士 刀根良典
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はじめに
これまで2回、教育相談や生徒指導に関わる子どもや保護者への対応法を講演しましたので、本日の研修会では、教職員のストレス低減をテーマに掲げた研修内容にしたいと思います。
教職員のストレス低減は、現在の教育現場において重要な課題として認識されています。この研修会では、皆様が実際に「ストレスが軽くなってよかった」と実感できる時間にしたいと考えています。
- 教職の現状と課題
近年、学校は非常に高いストレス環境にあるとされ、多くの教職員がその影響で精神的な疾患を発症し、休職を余儀なくされるケースが増え続けています。
学校現場のストレス状況が頻繁にメディアで報道されるようになったこともあり、教職への興味を持つ若者が減少傾向にあります。そのため、教員採用試験の受験者数が減少し、競争倍率も大幅に下がっています。
現在では教員免許を持っている人が多い一方で、実際に教職を志す人が少なくなり、教員不足が深刻化しています。特に、病気休暇や産休・育休などでの代替教員がすぐに見つからないケースも多くなっており、校長先生や教育委員会も代替教員の確保に苦慮しておられるようです。
今、教職員の世代交代が進み、若い先生が増えていますので、当然のこととして、結婚して産休・育休に入る先生も今後、増えて来ると予想されます。一刻も早く、教員不足が解消されるといいですね。
- 教職のメリットと職場環境
とはいえ、教職が他の職種に比べて特にブラックな労働環境かというと、そうではないと私は思います。教員の身分は安定しており、福利厚生も充実していますし、職場環境自体も良好といえるでしょう。
また、メンタルヘルス維持を目的とした研修会も積極的に開催されており、教員の健康や労働環境の改善が図られています。本日のようなメンタルヘルスに関する研修会もその一環であり、こうしたサポート体制は教職のメリットといえます。
- 理論学習の重要性
本研修会では、「自律訓練法」というストレス・リダクション法の実習をメインにしています。
その前に、まず理論学習を行います。これは、実習を行う前に、その実習の意義や目的を理解しておくことが重要だからです。
理論学習を通じて、研修の意図や目指す方向性を明確にし、そのうえで実習に臨むことで、実際の効果を実感できるようにしていきたいと思います。
- 「ウェルビーイング」の概念
最近よく耳にする「ウェルビーイング」という言葉があります。これは、単に身体的・精神的な健康だけでなく、社会的・経済的にも良好で満たされた状態を意味します。
WHOが定義する「健康」の中にも「ウェルビーイング」の用語が含まれており、現在では、身体的な健康に加え、経済的、文化的、社会的な側面も良好であることが健康の条件とされています。
これにより、教育においても「ウェルビーイング」の概念は大きな影響を及ぼしており、SDGs(持続可能な開発目標)とも深く関連しています。今後、学校においても「ウェルビーイング」はますます重要なキーワードとなるでしょう。
- 研修会のテーマと目指す方向
こうした背景を踏まえ、本日の研修会では、「ウェルビーイング」をテーマの一つとして取り上げ、先生方が健康的かつ文化的、社会的にもより良い方向へと進んでいけるよう、研修面からのサポートをしたいと考えています。
教育相談部会として、「心の健康」に焦点を当てた内容で研修を進め、「ウェルビーイング」という視点から教職員の心身の健康維持と働きやすい職場環境の整備を目指すときの助けとなるような研修会になれば嬉しいです。本研修会が皆様にとって意義深く、日常業務に活かせるものとなることを願っています。
話題1:AI(人工知能)を活用してストレスを低減する
- AIによるストレス低減への活用
まずは、日常の業務の中で、すぐに取り入れやすいことから始めていきましょう。私は今、ICレコーダーを使って今日の講演内容を録音しています。録音をする理由としては、自分の話した内容を振り返り、改善点を把握するためでもありますが、もう一つには、近年大きく進歩したAI技術を活用するためでもあります。
私が最近使用を開始したソフトに、ICレコーダーのデータを入力すると録音された音声をテキストに変換してくれるものがあります。同じような製品は以前にもありましたが、以前は音声入力時の変換の精度が低く、「ソフト開発」と話したのに「祖父と開発」と変換されてしまうといった誤変換が頻発していました。現在は、主観的には約九五パーセントの高精度で正確にテキスト化できるようになっていると思います。
- 授業記録の効率化
このテキスト変換機能を使えば、先生方もご自身の授業をICレコーダーで録音し、パソコンに取り込むだけで、授業内容の記録を短時間で作成できます。もちろん、完全に正確にというわけではないので、約九五パーセントの精度の変換結果をもとに、必要に応じて手直しが必要ですが、少しの修正で授業記録が完成するのは非常に便利です。
- チャットGPTを使った授業記録の整備
次に、変換したテキストデータをAI(人工知能)であるチャットGPTに読み込ませます。チャットGPTには、例えば「この授業記録を清書してください」「大見出しと小見出しをつけてレポート形式にしてください」といった指示を出してデータを送信することで、授業記録が整理されたテキストとして完成します。このように指示することで、あっという間に授業記録がレポートとしてまとめられますので、ぜひ一度試してみてください。
- 情報漏洩に対する配慮
ただし、チャットGPTを使用する際には、データが外部のスーパーコンピュータに送信されていますので、情報の機密性に注意が必要です。特に企業機密や新製品開発などの機密情報に関わる仕事をしておられる方は、外部のAI(人工知能)に頼ることは慎重になった方が良いでしょう。
私が使用している音声データをテキストに変換するソフトは、外部サーバーを介さずパソコン内で処理できる仕様のため、テキスト変換までの段階では情報漏洩の心配はありません。ただし、チャットGPTなど外部とデータのやり取りをする場面では、慎重さが求められます。とはいえ、私個人のデータの大部分に関しては、特に気密性の高い内容でも重要な内容でもないため、それほど神経質になる必要はないとも感じています。
- AIに対する苦手意識を持たず活用する
AIを活用する際、あまり堅苦しく考えず、気軽な気持ちで試してみることが大切です。例えば、チャットGPTに「新美南吉の『ゴンギツネ』という物語の読書感想文を書いてください。小学校4年生の子が書いた感想文として、原稿用紙五枚分にまとめてください」と命令すると、瞬時にその内容が生成されます。
こうした利用ができるAIツールが登場した今、学校では課題の出し方を再考する必要があるでしょう。例えば、課題図書の感想文を募集した際に、AI(人工知能)を活用した作文が提出されるといったことも、将来的には考えられます。この児童の作品は良いと思って担当の先生が選んで応募してみたら、実はAI(人工知能)が作った作文だったということが、将来は起こってくると思います。
- AI利用の現状と教育現場での課題
AI技術は一般に公開され始めたばかりであり、現時点では規則や法律も十分に整備されていません。そのため、教育の現場においても問題点を洗い出すために、教職員の皆様がAIを積極的に使用し、体験を通して理解を深めることが重要です。
適切に使用すれば、AIは作業効率を大幅に向上させる手助けとなります。私自身も、原稿作成等の業務においてAIを積極的に取り入れ、その利便性と効率性を最大限に活かす方法を模索しています。
このように、AI技術を業務に活用することで、教職員の皆様が感じている業務負担やストレスの軽減に繋げることができればと思います。AIを賢く活用し、より効率的で充実した教育現場を一緒に目指していきましょう。
話題2:口述筆記で文章作成のストレスを低減させる
- 口述筆記での文章作成を活用し、ストレスを軽減する
講演内容や発表を口述録音し、それを原稿に起こし、AIツールであるチャットGPTを用いて清書することで、すぐに文章として整った原稿が完成します。これにより、簡単に原稿作成ができるため、業務の効率を大きく向上させることが可能です。
使い方に慣れるために、授業記録や日記など、個人的な用途で練習してみることをお勧めします。日記などは、Wordのディクテーション機能(口述筆記機能)を活用し、マイクを使って音声入力をすることをお勧めします。以前はこの音声入力の精度が低かったものの、現在では格段に向上し、変換ミスも少なくなりました。
- 「書く」から「話す」教育への移行
初等教育で、3R‘S(読み、書き、算数)が無くなることはないと思いますが、学年が上がっていくたびに、その指導内容は大きく変化していくと推測されます。
今後、文章作成に関する教育は「書き方」から「話し方(ディクテーション)」へとシフトするのではないかと思います。かつてワープロの普及が文章作成に大きな変化をもたらしたように、AI技術の進化もまた、文章の作成プロセスを劇的に変えていくでしょう。
その結果、文章として成立する言葉で話す能力を持つことが、今後ますます重要になってくると思われます。私自身も講演を行う際、文章化しやすい話し方を意識して講演できるうよう訓練を重ねています。
- 口述テキストを基にした効率的な文章作成
まず口述筆記でテキストとしての形を整え、それをAIに読みやすい形に加工させた後で、最終的に自分で不要な部分を削除し、必要な部分を追加することで、論文や報告書をスムーズに完成に導くことができます。
文章をゼロから手書きで作成するよりも、もとになる口述テキストがあれば、原稿作成作業の負担は大幅に軽減されます。こうした方法を身につけることで、仕事の質も作業能率も格段に向上するでしょう。
- 学級通信の作成にAIと口述筆記機能を活用する
学級通信の作成にも、Wordの口述筆記機能(ディクテーション機能)を利用することが役立ちます。授業中のエピソードや、子どもたちの反応を口述で入力し、内容を整理することで、学級通信も能率よく作成できますし、学級通信のネタ切れを防ぐこともできます。
月に一度の発行を目指しても、アイディアが枯渇しがちですが、授業内容や子どもたちの活動を定期的に記録することで、自然と素材が集まり、学級通信が容易に継続できるようになります。
私が小学校六年生を担当していた際、学級通信の名前を『伸び伸び』としました。もともとは、子どもたちが伸び伸びと成長してほしいという願いを込めての命名でしたが、通信の発行が延び延びになってしまい、「伸び伸び」を「延び延び」に替えなければいけないな、と思ったこともあります(笑)。このように学級通信を発行し続けるためには、日々の活動を小まめに記録し、素材として蓄えておくとよいでしょう。
- 学級通信を未来の実践報告や研究発表に活用する
授業で行ったことや子どもたちの反応を学級通信に書き残しておくと、後々、実践報告や研究会での発表に活用できます。
例えば、以前に行った国語の授業での子どもたちの感想を学級通信に記録しておくと、実践報告を求められた際に、そのときの学級通信を参考にして報告書を作成できます。
また、教育雑誌への論文依頼を受けた場合も、過去の学級通信の内容を基に再編集して仕上げることが可能です。
このように、一度の作業が二度、三度と活用できる形に変わり、作業効率が大幅に向上しますので、仕事上のストレスを軽減することに役立ちます。このような工夫を取り入れ、上手に仕事を進める方法を研究し、実践してみることも、仕事上のストレスを低減する上で役に立つのではないかと思います。
話題3:これまでの資料を再利用することでストレスを低減する
- 新任教員のための支援体制の必要性
新任の教員時代は、教育現場での基本的な業務の理解が不十分な場合が多く、目の前の業務をどう処理すればよいのか、まだ身についていないことが少なくありません。
そのため、職場としては新任教員が円滑に業務をこなせるように、少なくとも1年間はサポートできる体制を整えることが重要です。特に1学期の初めは、提出しなければならない文書が多く、慣れないうちは対応が難しく感じられることもあります。
- 年度初めに求められる膨大な業務
教員の仕事の性質上、年度初めには多くの文書を作成する必要に迫られます。1年間の教育活動を見通し、授業計画やその他の教務関連の書類を作成し、提出する必要があります。
また、自己目標シートの記入や、公務分掌として担当する仕事の年間計画を作成しなければならないなど、四月中に相当な分量の文書を作成しなければなりません。これらの業務は、日々の授業や生徒指導をこなしながら行う必要があるため、負担が非常に大きいものです。
- 高まるストレスと必要なサポート
こうした多忙なスケジュールのために、新採教員の中には、五月ごろには早くも強いストレスを感じ、業務が行き詰まり、高いストレス状態に陥ってしまう場合がよく見られます。そこで、先輩教員が仕事の基本的な進め方を教えたり、必要に応じて支援したりして、新任教員が無事に1年間を過ごせるようサポートすることが求められます。
- 過去の資料を活用する効率的な方法
年間指導計画などの書類も、新たに一から作成するのではなく、前年度までに作成されている資料を活用し、それを基に手直しして作成することで、作業効率が格段に向上します。この方法を新任教員に教えることで、作業時間や負担が大幅に軽減されるでしょう。
経験のある教員にとっては当然の作業方法であっても、新任教員にはまだ知識や経験がないため、こうした方法を知らない場合がほとんどです。そのため、初歩的な仕事の進め方であっても、新任教員が理解しているだろうと思い込まず、しっかりと伝えサポートすることが重要です。
話題4:「何もしない時間」を「ライフスタイル」に取り入れることでストレスを低減する
- メンタル不調は予防できる
まず知っておくべきこととして、メンタル不調は正しい知識と工夫次第で予防が可能であるという点です。コロナウイルスやインフルエンザの感染を完全に防ぐことは難しいですが、心の不調に関しては違います。心身に負担をかけずに適切な対策を行うことで、メンタル不調のリスクをかなり減らすことができます。
- 心の健康のために「何もしない時間」を確保する
メンタルを安定させるためにもっとも大切なことは、「何もしない時間」を生活の中に意識して取り入れることです。「何もしない時間」というのは一見無駄に思えるかもしれませんが、この時間は心の健康にとって非常に重要なのです。リフレッシュや休憩といった意味だけでなく、何もしていないという状態が脳にとって深い休息と回復の時間となるのです。
- 本当の「何もしない時間」の定義
ここで言う「何もしない時間」とは、ただゲームやネットをしながら過ごす時間とは異なり、脳や心が本当に休息できる時間を指します。例えば、睡眠や瞑想がこれに当たります。
睡眠は自然な回復活動ですが、瞑想は自分の意思で意図的に心を静め、ただ「何もしない」ことに集中する方法です。この「何もしない」という状態を保つことで、脳が過剰な情報から解放され、深いリラックス状態に入ることができます。とくに、精神的な疲労が原因で生じるメンタル不調には瞑想が非常に高い効果を発揮します。
- スマートフォンの普及とメンタル不調の増加
2000年頃から、日本でもうつ病が増加しはじめましたが、これにはスマートフォンやSNSの普及が大きな影響を与えていると言われています。スマートフォンは私たちの生活に不可欠な存在となり、私たちは常にSNSやネットを通して大量の情報にさらされています。
こうした情報の多さが脳に負荷をかけ、また睡眠時間の減少などを招き、うつ病や不安症の原因となることがあるのです。
- 脳の疲労がメンタル不調を引き起こす
うつ病の原因の一つには、脳の過剰な疲労があります。よく、職場のストレスや人間関係が原因でうつ病になるといわれますが、実際には職場での問題だけが原因でうつ状態になるわけではありません。
人間関係で悩むと、その問題を頭の中で繰り返し考え続けることになり、夜の睡眠も妨げられてしまいます。この結果、睡眠が浅くなり、昼間も嫌なことを何度も反芻して脳を消耗させてしまうため、さらに疲れがたまっていくという悪循環に陥ります。
- 日本人の睡眠時間とメンタル不調の関係
世界的に見て、日本人は睡眠時間が短い傾向にあります。これが一因となり、うつ病が増加していると言われています。うつ状態に陥らないためには、何よりもまず「しっかりと睡眠をとること」が重要です。
では、どのくらいの睡眠が理想的なのでしょうか? 実際には七時間程度は必要です。できれば八時間は横になって眠るのが理想的です。
しかし、特に日本の女性は家庭と仕事の両方で負担が大きく、平均して五時間程度しか眠れていないというデータもあります。
- 忙しい日々の中での適切な睡眠時間の確保
先生方も、学期末の成績評価の時期など多忙な時期には、短時間の睡眠を取っただけで学校へ出勤しなければならないことがあるかもしれません。たしかに、短期的に無理をしなければならない状況は時には避けられないこともありますが、通常は最低でも七時間は横になって体を休めるようにする必要があります。眠れなくても、横になるだけで体の疲労は取れていきます。
- 「自律訓練法」によるリラクゼーション技法の習得
また、今回は「自律訓練法」というリラクゼーション技法をご紹介します。この技法を取り入れることで、心身のリラックス効果が期待でき、心の健康を維持することができます。日々の生活にこのような健康法を取り入れ、ぜひ実践していくことで、よりストレスフリーなライフスタイルを築き上げていくことができるでしょう。
話題5:自律訓練法等の瞑想的手法を学んでストレスを低減させる
- 「自律訓練法」の重要性とプログラムの位置づけ
私が提唱する「マインドフルネス健康経営・ストレスリダクションプログラム」では、「自律訓練法」を科学的瞑想法の一環として、マインドフルネス研修プログラムに組み込んでいます。
「自律訓練法」は、心身の健康維持とストレス低減に効果的であり、精神的な安定を図る上でとても有効な方法です。
- 睡眠と瞑想の違いと共通点
睡眠と瞑想は、脳を休息させるという点で共通していますが、異なるプロセスです。睡眠は無意識の中で起こる自然な行為であり、瞑想は意識的に行うことができるものです。
瞑想中は脳の活動が一時的に静まり、休息モードに入るため、頭と体の疲れが和らぎます。ただし、瞑想はあくまでも補助的な休息であり、睡眠の代わりにはならないため、睡眠と瞑想の両方をバランスよく取り入れることが重要です。
特に「自律訓練法」という瞑想的手法は、瞑想の中でも効果が顕著で、短期間で脳をリフレッシュさせる力を持っています。
- 意図的に始められる瞑想の利点
睡眠とは異なり、瞑想は「今から始めよう」という意思で簡単に始められるのが特徴です。睡眠は「寝よう」と意識しすぎるとむしろ寝付けなくなることが多いため、不眠に悩む方には瞑想的手法が助けになるでしょう。
睡眠と違って、瞑想は自分の意志で開始できる点がメリットです。このため、瞑想を取り入れてリラックスする習慣がある人と、そうでない人では、健康の安定度に差が出ることが多いと考えられます。
- 「寝つきがよい=健康」ではない
「私は寝つきが良く、横になるとすぐに眠れる」ということを自慢する人がいますが、実はこのような場合、必ずしも健康とは言えません。すぐに寝落ちしてしまう人は、慢性的な睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群などの問題を抱えている可能性が高いのです。このような状態であれば、日中に集中力が欠けたり、車の運転中に眠気を感じたりすることがあり、事故や作業ミスの危険性も増加します。
一般的には、健康な人であれば、横になってから十〜十五分程度かけて自然に眠りに入るのが通常の姿です。そのため、横になってすぐに寝ついてしまう場合は、何らかの理由で睡眠不足が蓄積している可能性があると認識する必要があります。
- 「自律訓練法」の歴史と効果
「自律訓練法」には百年近い歴史があり、ドイツの医師シュルツによって生み出されました。シュルツ医師は、小児喘息に悩まされていた自身の経験から、この手法を開発し、結果としてストレス性の病気を軽減させる手法として広まりました。
「自律訓練法」を実践することで、まず疲労回復効果が得られ、病気の予防や健康増進、不安や神経過敏の緩和といった効果も期待できます。また、緊張を和らげ、人前での過度な緊張も軽減されるため、仕事のパフォーマンスも向上します。
- 初めての授業での緊張体験
私は、講演会など大勢の人前で話している時、今は、ほとんど緊張しなくなりました。ところが、私が先生になったばかりの頃の勤務初日の出来事を、今でも覚えています。私もまだ二十代の先生に成り立ての新採教員で、全校の児童を集めての着任式のときのことです。校長先生から、
「今日、新しい先生が来られましたので、児童の皆さんにご紹介します。先生方、順に朝礼台にお上がり下さい。」
と言われ、校長先生と入れ替わって、朝礼台に登ったのですね。赴任したのが大規模校でしたので、運動場に千人くらいの子たちがクラスごとに並んでいました。
そこで挨拶している時に、急にね、本当に急に足がブルブルと振れ出しました。相手は子どもですが、千人の前で話をするなんて、生まれて初めての経験だったので、本当にものすごく緊張していたのだと思います。こんな状態で、先生が務まるのだろうかと思いました。
それから六月頃に入って、先輩の先生方が研究授業を行うのを参観したときにも、自分が授業をしているのではないのに、異様に緊張したのを覚えています。大規模校でしたので、先生がたくさんいるのです。五十人位はいたと思います。
全員の先生は教室の後ろに入れないので、廊下側の窓を全て取り外して、先生方が教室を取り巻くようにして授業参観が行われていました。若い女性の先生が授業をしていらっしゃいましたが、それを見て、これは自分には無理だと思いました。そのくらい物凄く緊張するタイプでした。
- 「自律訓練法」による自信と集中力の向上
こうした強い緊張を感じやすい性格でしたが、「自律訓練法」を実践し続けることで、今では大勢の人の前で話すときもリラックスしてできるようになりました。この技法を習得したことで、自己コントロール力が高まり、余裕を持って講演を行えるようになったと実感しています。
- 「自律訓練法」を取り入れる効果
「自律訓練法」をライフスタイルの中に取り入れることで、イライラが軽減し、集中力も増して、仕事にも集中しやすくなります。また、心の平穏が増し、夜もぐっすりと眠れるようになるため、次第に自信が湧き、自分に対して前向きな姿勢が持てるようになります。ぜひ、皆さん方も「自律訓練法」を習得し、続けてください。
(この後、「自律訓練法」の1回目の実習を行いました。「自律訓練法」の実技は、紙上で再現することは難しいため省略します。)
話題6:「白鳥芦花(ろか)に入る」という生き方
研修会の配布資料の一つに「白鳥芦花に入る」という題名の原稿をお渡ししてありますので、これを使って、今日のテーマである「ストレスを低減する生き方」についてお話しします。
- 「個性的」という言葉の変遷と現代の若者たちの捉え方
かつて「個性的」という言葉は称賛の意味で使われていましたが、近年では若者たちがこの言葉を避ける傾向にあります。なぜでしょうか? それは、集団に溶け込まず、目立ちすぎる人を「個性的」と形容するようになったことに由来するようです。「変わり者」や「協調性に欠ける人」という意味が込められるようになったために、「個性的」が否定的なニュアンスを帯び、若い世代はそのレッテルを嫌がるようになったようです。
しかし、個性は本来とても大切なものです。個性の尊重が重要である一方で、どのように個性を活かすかについて考えるためのヒントとして、「白鳥芦花に入る」という言葉をご紹介したいと思います。
- 「白鳥芦花に入る」という生き方とは
「白鳥芦花に入る」という言葉は、作家で社会教育家であった下村湖人の書いた『次郎物語』第三部に登場する言葉です。「芦花(ろか)」とは、川岸などに群生する白い芦の花を指しています。物語では、真っ白い芦の花が一面に咲き広がる中に、真っ白い白鳥がゆっくりと舞い降りる情景が紹介されています。
白い花に白い鳥がすっと溶け込むように降りて行くと、群生する花々に隠れて鳥の姿は見えなくなります。ただ、鳥が動くたびに芦の花が揺れ、心地よい香りがふんわりと漂ってくる。そのような静謐な情景が、この表現の中に描かれているのです。
この生き方は、現代でよく聞かれる「個性を発揮し、目立つことが良い」という考え方とは真逆をいくものです。少し極端に言えば、「個性をあえて目立たせない」という生き方であり、むしろ「没個性」を戦略的に取り入れることで、自然な存在感を持つことを目指すものです。
例えば、職場に入った新人が「成果を出して周囲に認められたい」と考えるのは一般的な発想ですが、「白鳥芦花に入る」はこれとは異なる視点を提案します。目立たない存在でありながらも、周囲の雰囲気や環境を徐々に良い方向へ変えていくことが理想とされるのです。
- 「白鳥芦花に入る」流儀が示す静かな影響力
自らが目立たないように行動しつつも、周囲の人々の心や環境を少しずつ良い方向に変えていくことが、「白鳥芦花に入る」の本質です。『次郎物語』には、その例としてある村の青年団の話が描かれています。村の若者たちは、特別な活動や目立ったアピールをするわけではなく、ただお年寄りの家を訪れてお茶を飲むだけです。しかし、そのささやかな行動によって村の人々は心を明るくし、「また来てほしい」と期待を抱くようになります。
このように、直接的な成果を目指すわけでも、注目を集めることを目的とするわけでもないのですが、結果的に村が明るく活気づいていくのです。この姿が、下村湖人の考える理想的な関わり方だったのかもしれません。
- 「個性発揮」の価値観とは対極の精神
現代社会では「個性を発揮し、自分をアピールすること」が大事だとされがちです。しかし、もし若い世代が「個性重視」を「自分を目立たせるべき」という意味で受け取るならば、むしろその考え方に苦しんでしまうかもしれません。
「白鳥芦花に入る」という生き方が示しているのは、必ずしも目立つ必要はなく、むしろ周囲が少しでも心地よい環境になるように、明るい気持ちになれるようにと意識しながら、密かに自分の役割を果たすことの大切さです。どこかに属しながらも、そこを快適な場所に変えていくために、見えない部分で静かに行動する。それこそが「白鳥芦花に入る」が示す生き方なのです。
- 「白鳥芦花に入る」話を伝える機会とAIの活用
この「白鳥芦花に入る」という話は、私が七~八年前にスクールカウンセラーとして、ある中学校を担当していた際に、生徒指導の一環で話した内容です。その話がICレコーダーに録音されていたのを見つけましたので、それをテキスト変換するソフトで文字起こしを行い、さらにAIによる文章の清書の処理を行い、それを更に手直しして原稿に仕上げました。
この作業プロセスはAI技術のおかげで非常に効率的に行うことができ、自分の話した内容をもとにしているため、著作権の問題も発生しません。このように、AIを活用すれば、文章作成のスピードと効率が飛躍的に向上するため、先生方もぜひAI技術を活用してみられることをお勧めします。
こうして、個性を控えめに表現する「白鳥芦花に入る」の精神を、AIを活用することで伝えたいメッセージに変えて効率よく形にすることができました。
話題7:教職員の心の健康を守るには・・・メンタルヘルスの基本
- 講演をもとにしたメンタルヘルス対策の提言
「教職員の心の健康を守るには」という題の資料も、事前に配布していただいていますので、少し説明を付け加えたいと思います。
こちらは県立高校の校長先生方に向けた講演内容を、AIを活用して文章としてまとめたものです。主に教職員のメンタルヘルスについてお話しした内容です。その最初の部分を以下にご紹介します。
- ストレスのコントロールは可能か
現代の社会において、ストレスを完全にゼロにすることは難しいものの、健康を損なわない範囲で適切にコントロールすることは可能です。そのためには、メンタルヘルスを個人の問題として矮小化するのではなく、職場全体で取り組む「健康経営」の一環として捉えるべきです。
その中で重要となるのが「ロジスティックス(補給)」という視点です。戦闘場面を論じる時に「素人は戦略を語り、プロは兵站(ロジスティックス・補給)を語る」と言われます。メンタルヘルスの維持も「ロジスティックス(補給)」による支えが重要です。特に働き方改革を進めている教育現場では、教職員の体力・気力・精神力を補充できる環境の整備が求められます。
個人のレベルでできることとしては、まず日常的に食事、運動、睡眠を整えること、そして脳を休ませる効果が期待される「マインドフルネス」や「自律訓練法」の実施などが効果的です。これらの取り組みはすぐにでも始められるものですので、無理のない範囲から着手してみると良いでしょう。
- メンタルヘルスの4つのケア
厚生労働省の指針に基づき、メンタルヘルスケアは以下の4つのアプローチから考えていくと良いでしょう。
- セルフケア:個々の労働者が自分のストレス予防や対処を行う。
- ラインケア:管理職が部下の環境を整え、相談に応じる。
- 事業所内ケア:産業医や保健スタッフが事業所内で提供するケア。
- 事業所外ケア:病院や相談センターなど外部の専門機関によるサポート。
今日の研修では、教職員がストレスの兆候に早期に気づき、セルフケアおよびラインケアを通じて適切な対処ができるよう、基本的な知識についてお伝えします。
- 部下の不調サインを見逃さない「ケチな飲み屋」
部下のストレスサインをいち早くキャッチするために、「ケチな飲み屋」という覚えやすい語呂合わせがあります。
- ケ:欠席が増える。
- チ:遅刻や早退が増える。
- ナ:泣き言や不安の表明が増える。
- ノ:能率(仕事の効率)が低下する。
- ミ:ミスが増える。
- ヤ:辞めたいという意向が出る。
これらはストレスが原因で発生する不調のサインです。また、個人的な変化として、睡眠障害、食欲不振、感情の不安定、引きこもりなどの兆候が見られた場合は、早めに医療機関の受診を勧めることが大切です。
- メンタル不調者への対応の7か条
メンタル不調の部下や同僚に対する適切な対応として、以下の七か条を心がけることが推奨されます。
- 暖かく見守る。
- 焦らせず、急がせない。
- 励まさない(うつ病の場合、励ましは逆効果になりやすいため)。
- 医師の指示に従う。特にうつ病の場合は休養を最優先にする。
- 処方された薬を正しく飲むよう促す。
- 非難や否定を避ける。
- 重大な決断を避けさせる(例:離婚、退職など)。
特に重いうつ状態の時には判断力や気力が著しく低下していますので、大きな決断は回復後に行うことが重要です。また、バランスの良い食事や職場内の健全な人間関係もメンタルヘルスには大きな影響を与えます。同僚や周囲との関係を良好に保つことも、日々のストレス軽減に寄与するでしょう。
- 励ましよりも安静を優先
うつ病やメンタル不調の際に励ますことは、本人の負担を増やしかねません。特にうつ病の患者には、励ましよりもまず安静を優先することが回復につながります。早期の発見と適切な休養、さらに医療機関への受診が重要であることを改めて意識し、対応していく必要があります。
- 睡眠がメンタルヘルスの鍵を握る
良質な睡眠はメンタルヘルスを維持するための重要な要素です。睡眠不足はメンタル不調の要因となり得ますので、七~八時間の睡眠を確保することが推奨されます。かつてのナポレオンの「三時間睡眠」という逸話に惑わされず、安定した睡眠時間を守ることが教職員の健康を守る基本です。
また、職場におけるパワハラの原因が上司の睡眠不足であったという例も見られます。ある上司がショートスリーパーを自負していたものの、常にイライラし、部下に対して怒鳴りがちなことが職場の問題となったケースもありました。ショートスリーパーを自慢する上司には、職場環境の視点からも特に注意が必要かもしれません。
上司と呼ばれる立場になったときには、今まで以上に十分な睡眠を取り、体調を調えていく必要があります。
- AIの活用で効率的に
今回配布した、この原稿もAI(人工知能)を用いることで迅速に仕上げることができました。自分が話した内容をもとに作成しているため、著作権の問題もなく、作業効率が格段に向上しています。このように、AI技術を活用することで、文章作成に要する時間を大幅に短縮することができます。先生方もぜひこの技術を使って、文章作成や講演記録の整理を効率化していただければと思います。
(この後、自律訓練法の基本の2回目を実習し、質問にお答えしました。自律訓練法の実技は、紙上で再現することは難しいため省略します。)
話題8:来年度は、子どもの暴力的行為への対応法
- 小学生における暴力的行為とその増加
最近、小学生の児童による暴力行為で、先生が高いストレスに曝されるというケースも多く発生しているようです。数人の先生方と話をする中で、衝動的な傾向が強く、自分をコントロールできずに、すぐ喧嘩を始めたり、蹴ったり殴ったりする児童が増えていることを伺いました。なかには先生に対して暴言を吐いたり、暴力をふるうケースも少なからず見受けられるようです。
- 来年度の研修テーマとしての「暴力行為への対応法」
もし来年度の研修会にも講師として招いていただけるならば、児童による暴力行為への具体的な対応法についてお伝えする機会を設けたいと思います。
児童の暴力行為は、決してあってはならないものであり、いくら身体が小さいからといって、教師が殴られる、蹴られるという状況は望ましいものではありません。それは、単に教師が被害を受けるという問題にとどまらず、子ども自身が加害者となってしまうことが最も懸念されるべき問題だからです。
- 教師と子ども双方の安全を守ることの重要性
子どもが教師に暴力をふるわないようにすることは、教師自身の身の安全を守るためでもありますが、それ以上に子どもが加害者になってしまわないという大事な視点があります。教育現場においては、こうした暴力行為の未然防止は教育者としての重要な役割の一つです。
子どもが教育を受けに来ている学校という場において、暴力が発生することで子どもが加害者になってしまう事態は避けなければならないことです。したがって、教育の場で暴力行為を起こさせないために、教師と児童が安全に接する環境作りが必要不可欠であると言えます。
- 暴力行為への基本的な対応方法
今日は時間の関係で詳細をお伝えすることができませんが、来年度の研修では、以下のような対応法についてお話しする予定です。
- パーソナルスペースの確保
教師の安全を守るために、まずは教師と児童の間に適切なパーソナルスペースを設け、暴力行為が突然発生しないよう、距離を保つことが大切です。
- チーム対応の導入
暴力行為が起きた場合には、単独で対応するのではなく、教員チームで状況に対応する体制が求められます。複数人で冷静に対応することで、教師自身の安全を守りつつ、適切に対処することが可能になります。
- 非暴力的危機介入法の活用
「非暴力的危機介入法」という方法は、児童の暴力行為がエスカレートしないようにするための手法です。児童と教師の双方にとって安全な対応法であり、暴力的な状況を平和的に解決するために有効とされています。
これらの具体的な方法については、来年度の研修でしっかりと解説していく予定ですので、ぜひ楽しみにしていてください。