カウンセリングオフィスZEN > ●講演・執筆活動から、その一部を紹介                    > 4  総合単元構想によるキャリア教育「未来を創る」・・・・授業展開は、こうすれば面白い。指導案の一つを公開します

4  総合単元構想によるキャリア教育「未来を創る」・・・・授業展開は、こうすれば面白い。指導案の一つを公開します

 

「ヒューマニスティック教育」実践シリーズ(2)

キャリア教育で児童・生徒の未来を創る

「私の人生絵巻」指導案

 

とね臨床心理士事務所 カウンセリング・オフィス「ZEN」主宰

臨床心理士 / 自律訓練法認定士  刀 根 良 典

  ―――――――――――――――――――――――――――

1 実施期日    省略

 

2 学校    小学校を想定(中学校でも可能)

3 対象学年  第5~6学年を想定

 

4 単元名   総合単元構想によるキャリア教育「未来を創る」

 

5 単元の基本構想

 

●「キャリア教育推進の出引き」から

 

子どもたちが、将来、変化の激しい社会に流れてしまうことなく、社会人・職業人として自立し、生涯にわたって自己の未来を切り開いていくことのできる能力を培う「キャリア教育」の推進は、近年の大きな教育課題となっており、その実践化は各方面からも期待されているところである。

 

その背景の一つには、勤労観や職業意識、社会人・職業人としての資質能力等の未成熟な若者の増加に対して、各方面から様々に心配する声があがってきていることが指摘される。

 

そのような若者に共通する課題として、働くことや生きることへの関心・意欲の低下、職業について考えることや職業の選択・決定を先送りにするモラトリアム傾向の高まり、社会の一員としての意識の希薄化、進路意識や目的意識の希薄なまま進学・就職する者の増加等も指摘される。

 

小学校に「キャリア教育」が必要なのかという意見があるのは十分に承知しているが、これら未成熟な若者の姿は、今、小学校で学んでいる児童の10年後の姿に重なってくるのではないかという危機感を初等教育に携わる者は持つ必要があるのではないか。

 

●児童生徒一人ひとりの「キャリア発達」を支援していく

 

しかし「キャリア教育」が必要とされるのは、そのような消極的な理由だけでない。「キャリア教育」には、児童生徒一人ひとりの「キャリア発達」を支援していくという極めて積極的かつ重要な教育的意義が存在する。

 

この「キャリア教育」を実践するときに必要となる基本的な考え方は、文部科学省発刊の「キャリア教育推進の手引き」に詳しく述べられており、本単元を企画するときの柱の一つともなっているが、この中には積極的な意義が述べられている。以下、この手引きを参考に企画された本単元の基本構想を述べていく。

 

●「キャリア」とは何か

 

「キャリア教育」で言う「キャリア」とは「個々人が生涯にわたって遂行する様々な立場や役割の連鎖及びその過程における自己と働くことの関係付けや価値付けの累積」と定義づけられている。ここでは、「働くこと」に合わせて、「自己」「個々人」「価値」「役割」等、「自己(アイデンティティー)に係わる内容が重要な鍵概念となっている。

 

つまり、「キャリア教育」を授業・教育活動という視点から考えるときに重要なことの一つは、学習者一人ひとりの内的世界を豊かにするということがあり、そのことを抜きにした「キャリア教育」は意味をなさないということである。

 

●「キャリア教育」を通して「自己」を学び、内的世界を豊かにする

 

文部科学省の「キャリア教育推進の手引」にも、キャリアとは、「個人と働くこととの関係の上に成立する概念であり、個人から切り離して考えられない」とその重要性が強調して述べられている。

 

そこで、本単元では、実践のベースに「自己」すなわち、「自己像・学習者の価値の明確化」「確かなアイデンティティーの確立」等の概念を重要な領域として位置づけ、以下に述べる様々な学習活動をとおして、児童一人ひとりの「キャリア発達」を支援していきたいと考えている。

 

●D.E.スーパーのキャリア発達理論を参考にする

 

文部科学省の「キャリア教育推進の手引」以外にも、我々が「キャリア教育」を実践していくときの拠り所の一つにしているものに、スーパーのキャリア発達理論がある。スーパーは、キャリアは人間の成長に沿って、生涯にわたって発達していくものであるとした。その概要は次のようである。

 

①第1期(0歳~14歳):成長段階

 

身体発達、自己概念の形成がメインとなる。自己の興味、関心、能力について探求しようとする欲求を伸ばし、肯定的な自己像を形成していく時期である。

 

②第2期(15歳~24歳):探索段階

 

世の中には様々な分野の職業があり、それに就くにはどのような能力が必要なのかを知り、自らを高めていくとともに、自分の興味、関心、適性、能力等に合わせて、分野や業種を絞り込んでいく時期である。そして職業訓練を受け、その業種に携わる職業人としてのスタートを切る段階に到る。

 

③第3期(25歳~44歳):確立段階

 

その職に定着するとともに、職業的専門性を培い、職業人としての技術、地位等を確立する時期である。

 

④第4期(45歳~65歳):維持期

 

獲得した専門性、確立した地位等を維持発展させ、更に職業人として成長していく時期である。これまで培ってきた能力に加えて、新たな知識や技能を身に付け、その職業を通して「自己実現」を遂げることとなる。この時期の最後のところでは、退職後のキャリア計画を立てることが課題となる。

 

⑤第5期(65歳~):衰退期

 

収入のための仕事ではない分野を含めた新たなキャリアライフを開始する。趣味を楽しみ、家族との交わりを深めると共に、地域活動や余暇活動等を通し人生を充実させることが重要な課題となる時期である。

 

本実践は、小学校高学年を対象としているので、第1期の発達課題である「自己概念の形成」が主たる目標の一つとなる。様々な学習活動を通して、児童一人ひとりに肯定的で健康な自己概念を獲得させていきたい。

 

6 単元目標について

 

キャリア教育では、将来、児童生徒が自立した社会人・職業人として生きていくために必要な能力や資質として、

 

①人間関係形成能力

②情報活用能力

③将来設計能力

④意思決定能力

 

の4領域を挙げている。本単元では、これら4領域を踏まえた上で以下の事柄を重点目標として掲げ、取り組んでいきたい。

 

(1)キャリア教育推進の視点から

 

ある小学校の「キャリア教育全体計画」では、高学年の指導目標として「自己の個性を理解し、夢をもち夢に向かって自分の能力を高めようとする意欲や態度を育てる」と述べられている。

 

そのことを達成するために、重要となるのは児童・生徒自身の「自己理解」であり、将来の「希望」や「夢」であり、自分を更に高めていきたいという「意欲」や「態度」の育成である。これは、どこの学校で学ぶ子供たちであっても、極めて重要な事柄である。

 

そこで、本単元では、以下の内容を「ねらい」として掲げたい。

 

① 児童・生徒の一人ひとりが、夢や希望を持って将来の生き方や生活を考えることができるようにする。

 

② 前向きに自己の将来を設計しようとする意欲や態度を培う。

 

③ 子供たち一人ひとりの発達段階に合致したレベルでの「将来設計能力」を育成する。そのためには、授業を実施することに加えて、学級における「キャリアカウンセリング」を志向した個別指導を組み合わせ、息の長い支援を行っていく。

 

(2)「総合的な学習の時間」の視点から

 

「キャリア教育推進の手引き」にもあるように、キャリア教育を実践していくにあたっては、「将来の職業や生活との関連や見通しを与えるなど、学ぶことや働くこと、生きることの尊さを実感させ、学ぶ意欲を高める」ことを重視した取り組みが進められていくことが期待される。

 

それらを達成するためには、「総合的な学習の時間」においては、以下の3点に留意してキャリア教育を推進していく必要がある。

 

①学び方やものの考え方を身に付ける。

 

②問題の解決や探求活動に主体的、創造的に取り組む態度を育てる。

 

③ 自己の生き方を考えることができるようにする。

 

7 本単元の基本構想・・・「一人ひとりの夢の実現」に向けて

 

●学びの3つのステージ「守・破・離」について

 

「一人ひとりの夢の実現」を現実化するためには、今日的な時代のまっただ中にある新たなものだけでなく、伝統的な教育に流れている考え方を大切にした取り組みを進めていくことが重要である。本単元では、そのことを基本的な戦略の一つとしている。

 

そのことは、「一人ひとりの夢の実現」を支援しようとする本単元の学習活動を企画するにあたって、伝統的な学問・修行における「学び」の各段階を示す「守・破・離」という考え方を参考にして、3つのステージを昇っていくよう構成したところにも示されている。

 

●学びのステージ①「守」とは

 

伝統的な教育システムにおいては、「守」とは、師とする人に入門して、その流儀を学ぶ時期である。師の教えている「基本技」「応用技」を、師と同じように再現できるようになった時点で、この段階は修了する。「書」で言えば楷書にあたる。

 

●学びのステージ②「破」とは

 

「守」の段階を修め終わったら、次に「破」の段階に修行のステージが進む。これは、師から学んだことに、自分の工夫を付け加えていく段階である。身につけた基本の技に自分の個性や自分の考えを加えていく時期である。

 

この段階で大事なことは、「守」を通らずに「破」に行った場合、基礎・基本が身に付いていないため、多くは未熟なままで終わることが多く、大成しないと言われる。 楷書を身につけずに行書や草書に行けないのと同じ理屈である。

 

●学びのステージ③「離」とは

 

これまで身につけた事柄にとらわれず、師のされなかった、あるいは出来なかった新たな境地を開拓する段階を云う。

 

「離」の後は、自分の流派を立てる「立派」に続くこととなる。自分の流派を打ち立てるところまでいけば、それはまさしく「立派になった」ということになる。

 

「立派」した後、それが世間で認められたとき「一流」となる。

 

●先人の知恵に学ぶ

 

キャリア教育を考える際にも、一人ひとりの児童が、自分の描いた夢を実現させるためには、先人の知恵に学ぶという「守」の部分がなければならない、と私は考えている。

 

「守」とは、教育で云えば、いわゆる「基礎・基本」にあたる部分であるが、「はじめに極意あり」という言葉が残されているとおり、どの流儀においても、「基礎・基本」となっている部分は、実は先人の到達し得た、いわばその流儀の極意に重なる部分である。

 

将来の夢を考えるときに、「基礎・基本」の習得、すなわち「守」をおろそかにして、将来の「夢」のみを強調してもそれは砂上の楼閣に等しい。

 

したがって、本指導計画においても、まずは、しっかりしたお手本となる人から、その生き方・考え方の精髄を学ぶという過程を通るようにしてある。

 

●郷土で活躍する人々に学ぶ

 

そのためには、郷土の出身者や、現在も郷土で活躍する多くの尊敬する人々から、生き方を学び(守)、それに自分の工夫を加え(破)、その上で、自分にしかできない人生を志し、自分の描く「夢」を実現(離)できるように導きたい。

 

本単元では、郷土の出身者の一人には、聖路加国際病院・理事長で文化勲章受章者でもある日野原重明氏を取り上げてみたい。

 

その訳は、日野原重明氏は、その生き方がキャリア教育を考えるときの教材として極めて興味深い方であるだけでなく、出版物やDVD等の映像資料も豊富であるため、学習の題材として好都合であることも、その理由の一つである。

 

日野原重明氏の生き方を、成功した人生(生き方上手)の一つのお手本として取り上げることに加えて、その他の郷土出身者や、現在も郷土で活躍する多くの尊敬する人々から学び、更には学んだことをその後の学習に生かすことにより、自分も将来は地域・社会に貢献できる人間に成長したいという「強い意欲」と「高い志」を持った児童生徒を育てていきたいと考えている。

 

●学習活動を進めるにあたって・・・全人的・総合的な学習を目指す

 

小学生の児童にも無理なく取り組めるように、視聴覚教材の活用、話し合い活動の実施、作品制作、プレゼンテーションの実施等を効果的に組み合わせ、児童の「学び」が総合的に展開されるよう配慮する。

 

そのことによって、学習が単調、あるいは抽象的になることを防ぐとともに、児童一人ひとりが、自分の全人格機能を十分に働かせて学習活動に取り組むことができるようにしたい。

 

また、資料から学ぶだけでなく、実際に子どもたちのお手本となる優れた人々と、できる限りの意義深い「出会い」が実現できるよう努めていきたい。

 

更に、学習活動が特定の教科や領域に偏ることなく、学校で学んでいる全ての学習活動と本実践が有機的に関連していくよう、横断的・総合的に学習活動が進められていくよう十分な配慮と工夫を行っていきたい。

 

また、この授業が小学校6年の学級で行われる場合は、卒業年度でことさら忙しい6年生の学級においても無理なく実施していくことができるよう、十分な配慮が必要である。特に、他教科の時間を圧迫してしまうことのないよう、十分な時間調整と教育的・学校経営的な配慮をしていく必要がある。

 

8 単元計画

 

 

 

学     習     活     動

第1次    夢と希望にあふれる私の未来はどうなっているのだろう?                    こんな人もいるんだ・・・生き方上手の大先輩、102歳の現役医師・日野原重明先生の生き方を調べてみよう   

●第1時 自分にとって「命・生きる」とは何か・・・一筋の生命をたどる                                  ●第2時 キャリア教育の視点から「いのち」を考える・・・DVD「いのちの授業」から学ぶ
●第3時 キャリア教育の視点から・・日野原先生の生き方に学ぶ  【教材】 ・DVD教材「プロジェクトX・挑戦者たち」から ・DVD教材「生き生きと生きる」から、 ・DVD教材「生き方バイブル」、他 ●第4時 こんな人生を歩めたらいいな・・・先人に学ぶ ●第5時 私のライフラインを作成する 
 第2次 「よき人」との「出会い」が君の人生を変える
●挑戦者・成功者から人生成功の秘訣をゲットする 

第3次 夢を実現する人生設計書「私の人生絵巻」の作成    
●第1時 オリエンテーション「私の人生絵巻」とは
●第2時 人生設計書「私の人生絵巻」を創り上げよう
●第3時 元気に百歳を超える100の方法(養護教諭と連携)
●第4時 「私の人生絵巻」の発表会をしよう 

 第4次 さあ未来に向かって出発だ!              前途洋々たる大海に力強く漕ぎ出そう!
●第1時 未来に向かって「立志」のセレモニーをしよう。
●第2時 学習の総括・・・一人ひとりの夢の実現 

 

9 本単元の詳細

 

 

第1次・・夢と希望にあふれる私の「未来」はどうなっているのだろう?生き方上手の大先輩、102歳の現役医師・日野原重明先生の生き方を調べてみよう

 

 

●第1時 自分にとって「命・生きる」とは何か・・・一筋の生命(ライフライン)をたどる

 

ライフラインとは、紙上に1本の直線を描き、直線の左端から、0歳を起点に10年ごとに年齢を目盛ったものである。

 

ライフラインに沿って、これまであった重要なできごとや忘れられない思い出、将来あってほしい事柄を記入していく。

 

ほとんどの子共たちにとって、自分の将来を時間的な見通しを持って考えることは、これまで試みたことのない、いわば未知の体験であると想われる。そこで、ここでは、卒業、進学、就職、結婚、子どもの誕生等の、人生上の主立ったライフイベントを取り上げ、未来を主体的に考えることへの動機付けとすることを第一のねらいとする。

 

●第2時 キャリア教育の視点から「いのち」を考える

 

日野原重明先生のDVD「いのちの授業」を視聴し、分かったこと、初めて知ったこと、感じたこと、日野原先生に質問したいことなどについて話し合う。

 

キャリア教育を少し深く掘り下げて考えてみると、そこには職業選択の問題だけにとどまらず、自分はかけがえのない自分の命を、どう使っていくのかという「いのち」への「問いかけ」が常に背景に流れていることに気づく。

 

また、キャリア教育を少しでも深く追究してみようとするならば「いのち」について考えることを避けて通ることはできないことに気づく。

 

したがって、ここでは「いのち」の問題を、生命尊重という視点だけでなく、「キャリア教育」の視点からも切り込んでいきたい。

 

●第3時 キャリア教育の視点から・・日野原重明先生の生き方に学ぶ

 

自分のキャリアを考えるときの事例の一つとして日野原重明先生を取り上げ、彼の仕事に対する考え方や業績、仕事をしているときの様子、生活の仕方、人生に対する積極的な生き方・考え方等をビデオ教材を通して学ぶ。

 

【教材】

 

・DVD教材「プロジェクトX・挑戦者たち」から

 

・DVD教材「生き生きと生きる」から

 

・DVD教材「生き方バイブル」、他

 

●第4時 こんな人生を歩めたらいいな・・・先人に学ぶ

 

自分の人生を考えるときのお手本となる人には、日野原重明先生だけでなく、他にどんな人がいるか調べてみる。

 

お手本となる人は、現存している人、歴史上の人、国内国外を問わない。自分も含めた、人間のライフヒストリーについて興味・関心を高めることが「ねらい」の一つである。

 

●第5時 私のライフラインを作成する

 

第1時に描いたライフラインに沿って、自分のライフイベント(重要な出来事)を書き込んでいく。

 

この活動をすることで、学習者は、命には始まりがあり、終わりがあることに自然に気づく。

 

自分の命・人生は一度限りのものであること。未来は可能性としては無限にあるが歩んでいけるのは一筋の道だけであること。「今・このとき」が未来を創っていっていること。それらの事柄が学習活動を通して意識化される。

 

加えて、自分の未来を創り上げる主人公は、自分自身であることも明確になっていく。

 

 

第2次 「よき人」との「出会い」が私の人生を変える・・・挑戦者・成功者から人生成功の秘訣をゲットする

 

 

このステージでは、子どもたちのお手本となる多くの「よき人」と児童を出会わせることを中心に学習活動が行われる。

 

●「出会い」の教育的意義とは・・・・・O.F.ボルノーに学ぶ

 

私たち教師が、教育活動と「出会い」について考えるときに、ドイツの教育学者であるボルノー(オットー・フリードリヒ・ボルノー)の論が参考になると思われるので、以下、引用したい。

 

ボルノーは教育活動における「出会い」の意義について、次のように述べている。

 

 

「出会いは、強力な形でそれまでの生活の連続の経過をとつぜんに中断し、生活に新しい方向を与えるような非連続な形の一つである・・・人はそのような出会いにおいて、その心の核心がテストされる。そのとき、何が彼の本質であり本質でないかが決定される。」(O.F.ボルノー 1973年 「人間学的に見た教育学」 玉川大学出版部)

 

良きにつけ悪しきにつけ、「出会い」は人間を変え、その人の運命を変える。人間は「出会い」によって成長し、また堕落もする。人間の教育が、植物が育つときのような、良い環境さえ与えれば、よい子が育つというように、単純に連続的な生長モデルでは捉えられない所以である。

 

「出会いはむしろ人間に、いくつもの可能性のなかから選ぶこと、決断すること、一つに賛成して他に反対することを強いる・・・この決断において初めて、彼は自分の実存の究極の厳しさに突きあたる」(前掲書)

 

このように「出会い」は、教育において決して無視することができない極めて重要な概念となる。ボルノーは「出会い」と授業の関係に対しても次のように述べている。

 

 

「このような出会いが教育にとってきわめて重要な意味をもっている・・・大切なのは、授業の中での出会い、すなわち特定の授業の教材との出会いの意義である。」(前掲書)

 

 

「出会い」が教育においては重要でありながら、一方において「出会い」は実存的であり、いつ起こるか分からない。

 

そのため、ボルノーは、このような「出会い」は予期することや計画することができないとも述べているが、それにもかかわらず、このような人間とって極めて重要な「出会い」を偶然にまかせるのではなく、意図的・計画的に意義深く展開することによって、児童生徒の運命を好転させていこうとするのが教育という営みである、と筆者は思っている。これは教師として仕事をしていくときの強い信念と言ってもよい。

 

私たち教師による、よい仕事(授業)は、子どもの運命を変えるのである。特に「キャリア教育」においては、その影響は極めて大きいと言わざるをえない。「出会い」を味方に付けることのできる「英知」を育て「魂(スピリット)」を覚醒させていくことが教育である、と言っても言い過ぎではないだろう。

 

「教育はそれゆえに、精神世界の諸像との決定的な出会いにまで、成長する者を導かねばならない。そのためにそれを目ざして、あらゆる授業が方向づけられていなければならない」(前掲書)

 

この中でも、「あらゆる授業が方向付けられていかなければならない」という部分は重要である。

 

また、「出会い」を考える際に、この授業を通して、子どもたちがどのような人や事象と出会うかは、子どもたちの将来に大きな影響を及ぼすであろうことを真摯に受け止め、毎回の授業を展開したい。そのため、ゲストティーチャーの選定には、十分な配慮・熟慮が必要となると考えている。

 

 

第3次 夢を実現する人生設計書「私の人生絵巻」の作成と発表

 

 

●第1時 オリエンテーション「私の人生絵巻」とは

 

児童・生徒は、これから取り組む「私の人生絵巻」という活動について、学習のねらい、進め方、準備する物などについて説明を受け、分からないところを質問し、これからの学習の大まかな流れを把握する。

 

●第2時 人生設計書「私の人生絵巻」を創り上げよう

 

① 「私のライフライン」を見直し、完成させる

 

これまでの学習をベースにして、「私のライフライン」を見直し、自分の人生において、①いつ、②何を学び、③何をするのか。また、④何に注意すべきなのか等について、ライフライン上に詳しく記入することで、「私の人生絵巻」の大まかなアウトラインを作り上げる。

 

そのとき、人生の四住期という考え方について知り、自分の人生設計を作成するときの参考にする。

 

(注)人生の四住期とは   四住期という考え方は古代インドで創られた。マヌ法典が出典と言われている。現代人にとっては、成功した人生を築きたいと思ったときに参考になる。

 

本単元で最初に調べ学習の教材に取り上げた日野原重明先生の生き方は、この人生の四住期という考え方から見ても、理にかなっている。

なお、本来は20年刻みで4期に分けるのが一般的であると思われるが、授業者は25年刻みで4期に分ける方が、現代という時代に合っていると思い、本企画でもそのようにしている。

 

なお、以下に述べる四住期の説明は企画者(筆者)が、現代の時代に合うように新たな解釈を加えて作成したものであり、インドのバラモンの四住期そのままではない。特に遊行期はバラモンの考え方とはかなり異なっている。

 

●第1ステージ 学生期(がくしょうき) およそ 0歳~25歳   

 

自分の尊敬する先生方について学習をする。学業に、真剣・まじめに取り組む。

 

●第2ステージ 家住期(かじゅうき)  およそ 25歳~50歳  

 

結婚し、家庭を築き、子どもを育てる。仕事に励み、家を守り、資産を蓄える。家督を譲れるよう、しっかりした後継ぎを育てる。

 

●第3ステージ 林住期(りんじゅうき) およそ 50歳~75歳  

 

家・仕事を子ども・後継ぎに譲り森林で修行する。自然環境の美しいところに住み、自分の精神性を高めるための学問・修行をする。

 

●第4ステージ 遊行期(ゆぎょうき)  およそ 75歳~     

 

自分の名誉や利益のためではなく、世の中の人々の幸せのためになるような優れた英知を備えた、高度の精神的(スピリチュアル)な存在になる。日本中、世界中を回り、自分の出会った人々や自分の助けを必要としている人々の人生が素晴らしいものになるように、相談にのり、よい知恵を授けて歩く。

 

② 「私の人生絵巻」の作成

 

「私のライフライン」を見ながら、葉書大のカードにその場面の絵を描いていく。

 

人生の1場面を1枚のカードに描く。これまで生きてきた過程での、忘れられない重要な出来事や、自分の未来にはこの時期にこのような事があって欲しいという、「将来の夢」を描いていく。描くときには、前時に学習した人生の四住期を参考にする。

 

子どもの場合は、将来の夢の部分が作品の大部分を占めることとなる。カードを書くときには、カードは年齢順に書かなくてもよい。書きやすいところから、あるいは、どうしても書いておきたい部分から書くのもよい。自分が書きたいところから書くように助言する。

 

全ての場面を描き終わったら、カードを年齢順に並べ、バインダーに綴じ込み、1冊の本のようにする。そこには、生まれたときから死ぬまでの事柄が絵と簡単な文で描かれており、伝記を絵本にしたような体裁になる。

 

●第3時 元気に百歳を超える100の方法(養護教諭と連携した授業)

 

人間は、健康でなければ、よい仕事はできない。そこで、養護教諭による「生涯を健康に過ごすには」をテーマにした授業を行い、人生のどの時期にどのような健康・安全上の危機が潜んでいるかについて学び、生涯を健康で過ごすための有益な知識を身につける。

 

思春期、青年期、壮年期、熟年期、老年期等に注意をしておかなければならない健康・安全に係わる事柄を学ぶ。そして、学んだ内容をカードに書き込み、「私の人生絵巻」のファイルの中に綴じ込んでいく。

 

例えば、40歳の場面で、「40歳の誕生日に人間ドックに行く」等をカードに書き込みファイルの中に加えておく。

 

それぞれの年代で起こりやすい疾病をあらかじめ知っておくことは、病気の予防に役立つだけでなく、健康なライフスタイルを獲得し、キャリア発達を保障していく上でも有効である。   特に長年の不健康な食生活や生活習慣の積み重ねで起こる生活習慣病を予防することは、学校教育で取り組むことが必要な極めて重要な領域の一つである。

 

それらに加えて、青年期に起こりやすい飲酒、薬物、謝ったダイエット等の問題についても、十分な時間を割いて学習させたい。

 

●第4時 「私の人生絵巻」の発表会をしよう

 

できあがった「私の人生絵巻」の作品の発表会をする。時間をかけて全員の作品を鑑賞し合う。このとき、カードを1枚1枚、セロテープで繋いでいき、それを教室の壁に掲示してもよい。

 

 

第4次 さあ未来に向かって出発だ!前途洋々たる大海に力強く漕ぎ出そう!

 

 

これまでの学習をして、気づいたこと、学んだこと、感じたこと等について「ふりかえり活動」を行う。感想文等を書いてもよい。

 

「描いた夢を実現させよう」という高い「志」や、困難に負けずに人生を開拓したいという、生きるための意欲づけを図ることができることを、授業者は期待する。

 

実施学年が小学校6年生の場合、制作した「私の人生絵巻」の作品や、授業後に書いた感想文を、卒業式の会場を飾る作品として掲示し、前途洋々とした、子どもたちの新しい旅立ちを祝福することもよいだろう。

 

10.評価

 

(1)評価項目

 

①夢や希望を持って、将来の生き方や生活を考えることができるようにな ったか。

 

②前向きに自己の将来を設計しようとする意欲や態度が培われたか。

 

③児童・生徒の発達段階に合致したレベルでの「将来設計能力」は育成 できたか。

 

(2)評価の方法

 

①授業モラールテストと自由記述

 

② クーパースミスのセルフエスティーム(自己肯定度)インベントリー

 

③授業中の観察

 

④ 児童の作品の精査と分析

 

●おわりに・・・こんなに長い指導案を、最後までお読みいただきまして、ありがとうございました

 

この指導案を参考にして、これまで、何人かの先生方がご自分の学級で授業を展開してくださっています。その中には、中学校で行われた事例もあります。

 

子供の教育に携わっておられる先生方が、ご自分の教育活動を創造していかれるにあたって、今回、ホームページ上に公開しました、この指導案が何かの参考になりましたら、筆者にとりまして、こんなに嬉しいことはありません。

なお、中学校での実践が新聞に掲載されていますので、ご参考までに添付します。

--------------------------

【日刊新周南の記事から】

 wada

「人生絵巻」を持つ生徒たち

 周南市の和田中で昨年度の1年生18人が自分の過去、現在、未来の人生を絵や文にまとめた「人生絵巻」を完成させた。

 子供たちの深い理解を導く“合流教育”を研究している和田小と和田中の、昨年度の1年担任、久楽信吾教諭と刀根良典教頭が小中連携教育の一環で取り組んだもの。成果は国立教育政策研究所の研究報告書に発表された。

 合流教育は知的理解と感性的理解を合流させる考え方で、五感や体験、イメージングで子供たちの感性を刺激するもの。刀根さんは前任の下松市米川小教頭時代にも合流教育の論文を発表しており、今回も同研究所の研究協力者を務めた。

 「人生絵巻」は生まれてから死ぬまでの自分の一生を場面ごとに描き、長くつなげるもの。生徒によって10枚から20枚以上までさまざまだが「19歳で広島カープ入団、24歳で日本一になる」「25歳で結婚する」「薬剤師になって35歳で和田に戻って開業する」「60歳からボランティア活動を始める」「孫2人に恵まれる」「85歳で亡くなる」など今後の自分の人生をイラスト入りで1枚々々を思い描いている。

 生徒たちは学級活動の時間に絵巻づくりに取り組み「大人になるのが楽しみになった」「人生は1人々々違うと思った」という生徒が増えたという。刀根さんは「生徒が自分を意識する機会になったと思う。生徒の内面にある深い声を表現できたのではないか」と分析する。

 久楽さんは生徒たちに「私の今の年齢と同じになる32年後に再び母校に集まり、この絵巻を見せ合おう」と約束したそうで「こうした約束も生徒の感性を長く刺激する効果がある」と話している。

    【出典:「日刊新周南」記事より転載】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

●実践例の紹介(2) 小学校で行われた、この授業も凄い! 素晴らしい実践です!

この指導案を参考にして、「総合的な学習の時間」で授業を展開してくださった先生が、ご実践をホームページに掲載しておられますので、ご紹介します。

よい授業をすると、子供も先生も、学校も地域も輝いてきます。

優れた授業は、子供の人生を好転させ、子供を幸せにします。子供が幸せになれば、親も幸せになります。よい授業は、関係する皆を幸せにします。

このような創意ある、優れた授業実践が広がってゆくことを祈念しています。

 

●小学校における「総合的な学習の時間」の実践例

http://yoshiko2.web.fc2.com/inoti4.html

http://yoshiko2.web.fc2.com/watasino.htm

http://yoshiko2.web.fc2.com/watasino2.html

 

 

by Konomachi Inc.