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【第6章】 生涯学習のテーマとして考える「危機の理解と支援」

 

 

ZEN電子図書(CDブック)
とね先生の読むカウンセリングシリーズ(1)
森田理論で神経質は幸せになれる 
とね臨床心理士事務所/ZEN図書出版

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第6章 生涯学習のテーマとして考える「危機の理解と支援」

 

とね臨床心理士事務所 カウンセリング・オフィス「ZEN」主宰

臨床心理士 / 自律訓練法認定士 刀 根 良 典

 

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危機は、特別な人だけに起こるわけではありません。私たち人間は、誰でも、生きていく上において、何度か、大小・様々な危機に出会わざるを得ません。そのような、誰にでも起こる危機的な状態を、どのように乗り越えていくか。また、危機に出会って、自分で自分をどのように支えていくか。

 

  それに加えて、現に危機的状態にある人とどのように関われば、相手を精神的に支えることができるか。これらは、カウンセリングや臨床心理学に関連した専門分野の一つですが、危機に無縁の人はいないことを考えますと、危機の理解と支援に関する基本的な事柄については、誰もが理解しておく必要があると思われます。

 

  そのような意味からも、生涯学習のテーマの一つに取り上げてもよい内容であると思われます。

 

 

 

  危機とは何か

 

  カウンセリング辞典(誠信書房)を引いてみますと、「危機」を次の様に説明しております。

 

 「新しい状況に挑戦したり遭遇したとき、あるいは大切なかけがえのない物や人を喪失した時、あるいは恐ろしい脅威にさらされた時、人間はそれにうまく対処しなくてはならない。そのときまず最初人間は、自分の日頃から自分の中にもっている人間の知恵としての対処レパ-トリ-を用いる。それをすべて用いても解決できない時、危機状況が訪れる・・・・・・・・この時期に健康な対処方法を獲得すればより健康になり、反対ならば不健康になる。」 出典:國分康孝編「カウンセリング辞典」(誠信書房)

 

つまり、この記述のように、危機状況では個人が何かの壁にぶつかっています。また、何かの壁にぶつかっているだけでなく、今までの方法では解決できないという状態にあるわけです。

 

  今までの方法で解決できるのであれば、これは危機ではありません。ところが、今まで自分が知っている方法をいろいろ試みたのだけれでも、それではどうも解決をすることができない、という状態に陥っているわけです。

 

    ●心理的な圧迫感を伴った悩みのある状態

 

  危機的状態にある人間は、心理的な圧迫感、つまりストレスが非常に強い状態にあります。加えて、圧迫感を伴った悩みのある状態にあります。その上、自分一人の力では、問題を乗り越えることができなくなっております。

 

  そこで、知人・友人に相談をしたり、信頼できる自助グループで新しい対処方法を学習したり、適切な機関の専門家の支援を求めたりすることが、必要となってきます。

 

  そうすることによって、危機的な状況から受けたショックから、早く立ち直るきっかけになります。また、危機的な状況の中で、判断を誤らなくてすみます。また、危機に対して適切な対処をすることによって、危機状態が慢性化することを防ぐことができます。

 

    ●健康な対処方法を獲得する

 

  危機を論じる際に大切なことは「この時期に健康な対処方法を獲得すればより健康になり、反対ならば不健康になる」という事実であります。

 

  物事には常にプラスとマイナスの両面があります。危機を考えるときにも、危機のプラス面とマイナス面の両面を知っておく必要があります。

 

  つまり、危機のマイナス面にだけ目を向けて、悲観的になってしまうのではなく、むしろ危機に対して、こちらから積極的に打って出る。そして、危機を健康的な対処方法を獲得する好機に変える。という考え方もあることを知っておく必要があります。

 

 

 

  人生における危機的状況

 

  危機も大きく二つに分けて考えることができます。一つは、地震、火災、病気等、何か予期せぬ出来事に出会うことによって、危機的な状況に陥ることが考えられます。

 

  もう一つは、成長に伴って、必然的に起こる危機でありまして、これは、多かれ少なかれ、誰にでも起こる可能性があります。成長に伴う危機は、一般には意外と見落とされているのではないかと思います。成長は喜びでもありますが、同時に危機でもあります。この両面を見ていく必要があります。

 

    ●成長に伴って、誰にでも起こる危機

 

  E・H・エリクソンという精神分析家がいます。この方は、アイデンティティーの心理学を確立した人として大変に有名です。エリクソンは人間が生まれてから死ぬまでを、乳児期、幼児期、児童期、学童期、思春期(青年期)、成人期、壮年期、老年期の8つの発達段階に分けて論じております。そして、一つ一つの段階に解決していかなければならない発達課題というものがあることを述べています。

 

  例えば、乳児期の子どもは、両親等、身近な者から愛されること等を通して、「基本的信頼感」というものを、この時期に獲得する必要があります。「基本的信頼感」とは、簡単に言うと、自分自身や自分を取り巻く世界を信頼して、その中で安心していられるという感覚のことです。

 

  

  乳児期の次に来る幼児期には、自分の衝動をコントロールすることへのベースともなる「自律性」。児童期には、回りとのバランスを保ちながら自分の欲求を表現できる「自発性」。そして学童期の「勤勉性」の獲得という発達課題が続きます。

 

  乳児期から学童期までは、子供というよりも保護者の問題が大きいですから、保護者を支援していくようにしていく必要があります。

 

  青年期では、「自分は何であるのか?」「自分は何になりうるのか?」等の「アイデンティティー」に直接係わる事柄が大きな課題となってきますが、これは、私達も経験で納得できるのではないかと思います。

 

  人間の発達は青年期で終わってしまうのではありません。青年期を過ぎた後も、成人期、壮年期を経過して、老年期まで発達課題というものがあります。つまり私達は、生まれてから死ぬまで、生涯に渡って発達を続けていきます。

 

  このことを危機という視点から見ますと、人間には、若いときだけでなく、老年期まで発達に関わる危機が潜在していることになります。そして、何かの拍子に、それが、表に現れてまいります。詳しくはエリクソンの著作を読んでみられると興味深いと思います。エリクソンは、それらの発達課題が何らかの理由で解決できないとき、様々な精神的な問題が起こることを指摘しています。

 

    ●人生における予期せぬ危機

 

  危機には、これまで述べてきました「発達上、誰もが必然的に出会う危機」の他に、人生において予期せぬ出来事によって引き起こされる危機があります。

 

  例えば、地震、火災などの災害に出会う等が挙げられます。これらは、あらかじめ予測することができません。他にも、会社の倒産、解雇、経済的な困窮、怪我、病気、離婚による家族の分裂、身近な人との別離等も挙げられます。

 

  このように私たちが、生きていく上で出会う予期せぬ危機、それに対する対処方法というものを、日頃から学んでおく必要があります。

 

  また、家族や親戚、友人や知人、あるいは地域の人々や、信頼できる自助グループ等の中で、助け合い・支え合い、遭遇した危機を無事に乗り切っていくことができるように、お互いに支援しあう必要が出てきます。

 

    ●危機は誰にでも起こりうる

 

  こう考えてきますと、危機への対応というものは、特別な人だけが学んでおけばよいというわけではない、ということが分かります。危機状態の理解とそれへの対処法を、生涯学習のテーマの一つとして取り上げていく必要があると思います。

 

・・・・・・・・・・・・・・(この後も、原稿は続いています。)・・・・・・・・・・・・

 

続きは、とね臨床心理士事務所から出版しています、CDブック第1巻「森田理論で神経質は幸せになれる」でお読みください。

 

 

 

 

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