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【第1章】 神経質の悩みと心のからくり

(注)神経質症であるかどうかは、素人判断せず、心配な場合は、必ず信頼できる医療機関(できれば森田療法を実施している医療機関)を受診してくださいますようお願いします。

 

ZEN電子図書(CDブック)
とね先生の読むカウンセリングシリーズ(1)
森田理論で神経質は幸せになれる 
とね臨床心理士事務所/ZEN図書出版

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                                     第1章 神経質の悩みと心のからくり

とね臨床心理士事務所 カウンセリング・オフィス「ZEN」

臨床心理士 / 自律訓練法認定士  刀 根 良 典

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●はじめに

森田療法の研究をはじめて、今年(2014年)で、もう40年が経過しました。私は教育者であって医師ではありませんので、森田療法を教育との関連で学んできました。その間に、様々な心理療法も学んできましたが、森田療法は、様々な心理療法の中でも別格である、との感を強く持っています。

 

森田療法は、「事実唯眞(事実のみ真実である)」という極めて科学的な枠組みの上に打ち立てられていますので、誰でもすぐに納得でき、その日から実践できる、極めてシンプルなものです。また、森田正馬全集も刊行されていますので、すぐに学び終わってしまいそうな気がします。

 

ところが、いったん研究をはじめてみますと、その奥深さに今更の如く目を見開かされる経験が、40年が経過した現在も続いています。学べば学ぶほど、その奥深さを教えてくれるのが「森田療法」です。

 

「森田療法」は理論的・専門的に難しく展開するならば、いくらでも難しくできますが、易しく展開しようとしたら、これまた、いくらでも易しく展開できます。そこで、理論的に精緻な展開は、他の専門家の先生方にまかせて、ここでは、できるだけ易しく学んでいくように心がけたいと思います。

 

CDブック1の第1章は、小中学校の生徒指導や教育相談担当の先生方と養護教諭の先生方に、お話した講演から原稿にしたものです。ストレスの多い教育現場で日夜、子供たちのために奮闘している先生方を支援することを目的の一つにしています。十分とは言えませんが、「森田療法」の考え方を、教育場面に活用するときのヒントになるように心がけたつもりでいます。

 

1 神経質の悩みとは、どのようなものか

神経質の悩みについて一般向けに書かれた本から、通常、よく見られる例を紹介して、今日の話の導入にしたいと思います。

 

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「本年四月、地方工場技術部門の係長から、本社営業部の課長に昇格して、転属しました。しかし私は、商品に対する知識は豊富ですが、はたして作るということはできても、売るという行為に変わって、しかもこの不況期に自分は一ランク上の課長として、職務をまっとうできるのかという潜在的な不安は常に持っていました。 そこの部署は、社内でも優秀な若い社員が多く集まり、抜群の販売の知識と能力を持つ人材が多いと聞いていました。そんな課の頂点にいるものの、実際は私よりも部下のほうが仕事ができて、本来教育すべき立場なのに、逆に教育されてしまうのではと不安でなりません。近頃では、部下との会話もほとんどなくなり、適切な指示も与えられません。ある朝、出勤時にエレベーターの中で部会に会いましたが、挨拶もなく横を向いたままで全く無視をしています。何か部下にも黙殺され馬鹿にされているような気がしてなりません。」

出典:長谷川和夫著 「マイナスの心をプラスに転じる法』 ゴマ書房

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人事異動により、新しいポストに着いてはたしてうまくやっていけるか、回りの人々が自分をどのように評価しているか等が過剰に心配になり、転勤をきっかけに職場適応で悩み始める人も出てきます。一般によくありがちなケースではないかと思います。

 

このような状態が高じてきますと、会社に行くことが苦痛になってきます。そのため長期間、会社を休んでしまったり、会社を辞めたりということも起こりがちです。

 

神経質傾向のある方の陥りやすい悩みには、この昇進恐怖の他にも、様々なタイプの悩みがあります。では、これから、神経質な性格傾向のある方が陥りやすい、様々な悩みについてもう少し紹介していきましょう。

 

 

・・・・・・・中略(CDブックでお読みください。)・・・・・・・・

 

 

●学校で発生しやすい赤面恐怖の悩み

このように、神経質症の発生には、学校要因にからむものが結構あるのです。例えば赤面恐怖の悩みも、授業中に発生することが非常に多いのです。例えば、先生から

 

「○○君、教科書を読んでください。」

 

と、突然の指名があったとします。

ところが、○○君は、そのとき、たまたまシャープペンシルの芯が詰まってしまっていて、それを直そうとしている最中でした。そのことに気をとられて、授業に集中していませんでした。先生も、それを知っていて、再度、授業に集中させようという意図もあって指名しました。

 

ところが、そのような心の準備ができていない状態で、突然に指名された子供の、ドギマギ感というものは大変だと思います。

 

ドキドキしながら、周囲の者に、先生は、何ページから読むように言われたのかを尋ねます。それを友達に教えてもらって読んでいるときも、まだ心臓はドキドキしています。当然、顔も赤くなっています。いわゆるあがったという状態です。

 

それを見ていた、一人の子供が

 

「あ! ○○君。顔が茹でダコのように、真っ赤になっている!」

 

と、ひやかし始めます。

それを聞いた回りの子供たちも

 

「あ-! 赤くなった! 赤くなった! 本当に赤くなった!」

 

と、はやし立てるわけです。

 

○○君は、この日の出来事が妙に心に引っ掛かってしまい、次にも、同じ状況になるのではないかと不安になるのです。そのようなことがきっかけとなり、赤面恐怖の悩みにとらわれてしまうというわけです。同じような体験をされた方も、たくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

 

●出席番号による突然の指名で授業中にパニック状態になる

授業中に指名するとき、先生が、生徒を名前ではなく、出席番号で指名するので、緊張感が異常に高まり授業を受けるのを苦痛に思うという悩みもあります。学校にいますと、これは結構よく出会うパターンの悩みです。

この事例では、授業中に先生が

 

「ではこの問題を誰に解いてもらいましょうか。今日は一二月九日ですね。では、出席番号九番の人、前に出て黒板に解答を書いてください。」

 

と、いう具合に指名されるわけです。

指名された人が、理解できているかいないかは、問題にされません。誰が指名されるかは、くじ引きと同じで、まったくの偶然に任されてしまいます。

教育は、可能な限り偶然の要素を退けて「意図的・計画的」になされていかなければいけないのですが、この教室では、「意図的・計画的」という言葉は、ほとんど死語同然となっています。

 

本当に授業者としての力量のある教師は、授業に臨む前に、この授業では、どこで誰に指名するかという、指名計画を持って生徒の前に立つのが普通です。そうしなければ、授業に偶然の要素が強く入り込んでしまうからです。

偶然でも、学習が深まり、子供たちによく理解できる授業となることはあります。しかし、偶然うまくいったものは、同じ確率でうまくいかないことが起こるのは、統計学の示すとおりです。

 

自分に理解のできない課題を突然に割り当てられ、解答を出すことを強要されるという体験が、教室で度重なって起こったならば、誰であっても、学校や勉強そのものが嫌いになっていくのは当然のことでしょう。

 

先生にしてみれば、授業は適度の緊張感が漂っていた方が、生徒は集中して勉強するだろうと考えて、このようなことを、しておられるのではないかと思います。たしかに、緊張感や集中は悪いことではありません。

 

しかし、学習内容に集中しての緊張感ならばよいのですが、自分が突然、訳の分からない問題で指名されるのではないかということを理由に、悩み・緊張しているのであれば、全くのエネルギーの無駄づかいとしか言いようがありません。

 

不登校の中には、このような学校要因によって登校できなくなる子供もいるのではないかと思われます。学校の先生方にしてみれば、家庭の問題や本人の性格の問題にしてしまった方が、学校や教師の側に責任が回ってこないので、気楽であるかもしれません。

 

しかし、教育を仕事にしている以上、学校要因によって神経質症や不登校が引き起こされていないか、教職にあるものは、日々の教育活動を反省してみる必要があるのではないでしょうか。

 

 

・・・・・・・中略(CDブックでお読みください。)・・・・・・・・

 

 

5 神経質症を予防するためには

 

●不安に学ぶ姿勢を持つ

続いて、どうすれば神経質症にならないで済むかについて述べてみます。ポイントの一つは、不安を敵に回さないで味方につけることです。その上で、不安に学ぶ姿勢を持つことです。

 

つまり、不安を邪魔者あつかいにしないで、むしろ

 

「これだけ不安だということは、私に何か準備をしろと教えてくれているのだ」

 

と、こう考えてみます。

森田正馬は「不安は安心のための用心である」と述べています。不安は、「何か準備をしなさい」「何か対策を立てなさい」と、私に教えてくれているのだ、というふうに受け取り、現実的な対策をとることにより、不安が引き起こされている原因の解決を図れば、神経質症になることはありません。

 

その反対に、カラオケに行ったり、アルコールを飲んで騒いで、ストレス解消を図ったところで、不安が引き起こされている元が断たれていなければ根本解決にはなりません。

 

つまり、不安を、あってはならない邪魔者と受け取るか、不安を感じたおかげで、問題の所在に早く気が付いてよかったと受け取るか、この違いは大きいでしょう。

 

大事なのは、不安の処理を間違えないということです。ここが肝心です。

 

●具体的な対応策を、子供と共に考える

子供を神経質症にしないために、私たち、親や教師は、どのようなことに留意して子供たちと係わっていけばよいかについて述べてみます。

例えば、ある子供が、次の様な相談をしてきたとします。

 

「僕は最近、いろいろなことが気になってしまって、考えれば考えるほど、自分のやっていることに自信がなくなってしまうのです。いったい自分は、どうなってしまったのでしょう。」

 

このようなとき、

 

「そんな気の小さいことでどうする。もっと気持ちを大きく持ってごらん。」

 

などと励ましたりしますと、子供によっては神経質症への道をまっしぐらに進んでしまうことになります。

そんな時には、

 

「何か、よほど困ったことがあるようだね。私でよかったら話してみない。何かよい解決法を探す手助けができるかもしれない。一緒に考えてあげよう。」

 

と、悩みや気持ちを聴いて差し上げる方がよいと思います。

悩みを、しっかり聴いてくれる人に出会うと、それだけでも不安は軽減していきます。その上で、日常生活でどうすればよいかについて、事実に即した具体的な対応策を、ポイントを絞って一緒に考えて差し上げることができればよいと思います。

 

もっと気持ちを大きく持ちなさい、明るい気持ちで係わっていきなさい、もっと積極的に、伸び伸びした気持ちになりなさい、などという抽象的なアドバイスは、子供を混乱させるばかりです。

 

●学校に来るか来ないかだけが問題ではない不登校

今日は、神経質症についてお話しして来ましたが、子供の不登校についても、簡単にふれておきたいと思います。

 

不登校への対応も、学校に来るか来ないか、どうすれば来るか、このようなことだけを問題にしても、あまり建設的ではありません。

 

不登校へは登校刺激をした方がよいのか。反対に登校刺激は控えた方がよいのか。無理にでも登校させた方がよいのか。それとも、今は、ゆっくり休ませた方がよいのか。ゆっくり休ませたら、そのまま学校へ行かなくなってしまわないか。こんなことを堂々巡りして考えていても、あまり役には立ちません。このような問題の立て方では、根本的なことを見落としてしまいます。

 

不登校は、学校に来るか来ないかだけが問題ではないのです。その子が不登校になった背後には、その子一人では解決できないような、何か困難な事柄があるのではないか。そこを見ていかないと本当の助けになりません。

 

一人では解決困難な問題も、適切な相談相手がいれば、解決できる可能性は高くなります。そこで、様々な課題を、その子や保護者が解決していくことができるよう、お手伝いするように係わっていくことができれば、本当の援助になります。

 

また、不登校の背景には、常に子供の性格や家庭の問題があるはず、とステレオタイプに考えるのも誤りです。

 

ときには、その子や家庭に何の問題がなくても、不登校は起こることがあります。例えば、学校にいじめや暴力行為があるために不登校になってしまっているのに、回りの大人が、そのことに気づいていない場合が考えられます。

 

この場合の不登校は、子供が自分の心身の安全を確保するための緊急避難の行動をとっているとして考えなければいけません。このような場合、いじめや暴力行為を根絶する努力をしないで、登校刺激を加えるのは、いじめや暴力行為に加担しているのと同じことになります。

 

このように不登校という現象も、一人一人の子供の立場に立って、親身になって相談に応じ、表面的な対応で終わることがないように心がけていく必要があります。

 

また、相談の内容によっては、スクールカウンセラー(学校臨床心理士)、教育センター、児童相談所、医療機関等、校外の専門機関との連携も必要になってくると思います。

 

●教師は、カウンセリングの基礎について研修を深める

現在、子供たちの心の健康に関する関心が、これまで以上に高まっています。文部科学省では、平成七年度から、小・中・高等学校にスクールカウンセラーとして臨床心理士等を派遣する事業を開始しています。それに加えて、平成一○年度からは、学校規模に応じて、子供たちの身近な話し相手としての「心の教室相談員」を配置することが始まっています。社会教育関係においても「家庭教育カウンセラー」という名称で、臨床心理士等による相談事業が開始されています。

 

現在、子供の「心の健康」や「心の教育」に関して、これまで以上に真剣に取り組まなければいけないのではないかという機運が、高まりつつあると言ってもよいと思います。ただし、まだ十分ではありません。

 

教師も、子供に勉強を教えるだけでなく、子供の心が健康に育っていくことができるよう、具体的な支援をしていくよう努めていかなければなりません。それには、人間の心の健康について、教育者の立場からの研修を深めていく必要があります。

 

そのため、現在、教育センターや教育委員会等の主催で、カウンセリングの研修会が開催されていますので、積極的に参加して学ばれることをお勧めいたします。また、学校カウンセリングに関わる私達も、少しでも質の高いプログラムが提供できるよう心がけていきたいと思います。

 

おわりに

今日は、思春期以降に起こりやすい神経質の悩みの代表的な事例や、それを発生させている心のからくりについて、簡単に紹介してきましたが、自覚症状の訴えだけで神経質症であるかどうかを判断するのは危険であることを知っておく必要があります。

 

何か身体の病気が隠れているかもしれません。また神経質症と似ていても神経質症ではない場合があります。必要な場合は医師の診察を受けることをためらってはいけません。医学的な検査を受けて、どこにも異常がないことを確認していくという配慮は欠かせません。このあたりはいくら慎重に行っても慎重すぎるということはない、と私は考えています。

 

また、今日は、神経質症発生のからくりについて、主に外部要因(適応上困難を感じさせる環境や社会的状況)に話題を絞ってお話しいたしました。症状発生には、その他にもいろいろな要因がありますので、研究してみられると新たな発見があると思います。

 

神経質性格の生かし方や森田療法理論に興味がありましたら、一般向けの森田療法関係の著書も多数発刊されていますので、研究してみられることをお勧めいたします。また、本格的に研究してみたい方には、日本森田療法学会という医師、臨床心理士、カウンセラー、大学の研究者等を主体とする学術団体もあります。一般向けの公開講座も開催されていますので受講してみられるのもよいと思います。ご清聴ありがとうございました。

 

・・・・・・・(講演会参加者の感想から主なものを抜粋)・・・・・・・

●神経質の悩みの意味が、今日、お話を聞いて初めて分かりました。勉強不足でした。「不安の時期」というのは本当に誰にでも起こっているのだなと実感しました。私も、小学校 の時には、よく顔が赤くなって、クラスメイトにからかわれたことがありました。「どうして私だけが」と思ったこともあり、今日はその時のことを思い出しました。これから、いろいろな子供に出合うと思います。もっともっと勉強が必要だなと思いました。

 

●自分の中にある神経質な傾向が洗い出されたようで、少し安心しました。自分の中にもあるということは、子供たちに共感できものがあるという気がしました。

 

●そういえば、こんなことを気にしていたなと、昔を思い出すことが多かったです。今から見れば馬鹿らしいことでも、子供のころは確かに気にしていました。今の子供たちの様子や、社会情勢を考えると、このような悩みを持つ子供は、これからもっと増えてきそうな気がします。他では聞けない貴重なお話をありがとうございました。

 

●本当に今の子供たちは、不安をどこで、どのように解消していったらよいのか分からなくなっているのではないかと考えさせられました。学校だけでなく家庭でも、カウンセリングについて学ぶ機会があればと思います。

 

●お話にあったような行動をとる生徒を、ときどき見かけることがあります。治療を必要とするほどでなくても、密かに悩みを抱えた子供は結構いると思います。大変参考になりました。特に「精神的からくり」の部分が印象に残りました。

 

●神経質の悩みについては、自分自身にも心あたりがあるものもあり、誰もが持ち合わせているということがよく理解できました。「不安を一緒に考えていく」そういう姿勢で子供たちを受け入れていきたいと強く思っています。

 

●あるカウンセラーから「問題を持つ子供の原因を追求していくよりも、傾聴を」と言われたことを思い出しました。不安の処理を間違わないということが、今日のお話をお聞きして少し分かったような気がします。

 

●内向的で学校の中では大人しく、他人に迷惑をかけることのないように見える子供の心 の葛藤についてのお話を聞くことができ、一人一人の子供の心の内まで、もっと深く考えていく必要があることを改めて感じることができました。とても参考になりました。

 

●いろいろな例を挙げて説明していただいたので、よく理解できました。私自身にもあて はまる例があり、神経質の悩みに関して考えを改めていかなければいけないと思いました。不安の処理を間違わないような助言を、生徒に与えていくようでなければいけないことを感じました。

 

●お話を聞いて、私の学校にも思い当たる生徒がいるのに気づきました。他の先生方にも、今日の話を聞いてもらいたいと思いました。

 

●私自身にも思い当たる点が多くあり、考えさせられました。

 

(月刊誌「生活の発見」に掲載された原稿に加筆したものです。)

by Konomachi Inc.